1967年以前、振り込みをしたり現金を引き出したりするには、わざわざ銀行まで行く必要がありました。近隣の金融機関に足を運んで所定の用紙に記入し、場合によっては1時間も列に並んで用事を済ませなければならず、時間がかかって負担の多い行為でした。
そこに登場したのがATMです。
プラスチック製のカードを差し込んで暗証番号を入力するだけで、ATMから出金をしたり、電子的に送金したりできるようになりました。現在では、インターネットバンキングやモバイルバンキングが普及しています。インターネットに接続している環境で数タップすれば、いつでもどこでもお金のやり取りが可能です。デジタル化が金融業界をいかに大きく変え、人々の生活をどれほど便利にしてきたかは明らかです。
そして今、これまでにないほど金融業界を変革しようとしている次の大きな波が、すぐそこまで来ています。それが「AI(人工知能)」の存在です。
AIは何十年も前から存在し、さまざまな形で活用されてきましたが、近年の生成AIの登場によって、その影響力は一気に加速しています。日常生活から仕事の進め方に至るまで、AIが深く生活に影響を及ぼそうとしていることを実感し始めています。なかでも、金融業界における影響は、他の分野と比べてもはるかに大きなものになるでしょう。
アクセンチュアが発表した大規模言語モデル(LLM)の潜在的な影響に関するレポートによると、銀行業界では全労働時間のうち39%が自動化の可能性が高い業務に費やされており、さらに34%の業務がAIによる拡張の可能性が高いと予測されています。
こうした理由から、金融業界はAIに多額の投資を行っている主要産業のひとつとなっています。前述のレポートによると、2023年には金融サービス関連企業がAIに費やした金額は実に350億ドルにのぼり、銀行、保険、金融市場、決済の各分野を含む投資総額は、2027年までに970億ドルに達すると予測されています。
現在のフィンテック業界において、AIはもはや単なる自動化のツールではなく、顧客体験、業務プロセス、意思決定そのものを再定義する中核的な存在となりつつあります。銀行業務における最もAIの活用が期待できる分野は、営業とカスタマーサービスです。たとえば、カスタマーサービスなら、金融商品や手続きに関して正確で漏れのない情報を24時間365日、提供できるようになります。また、決済分野においては、AIの利用により不正検知の精度を向上し、ご検知を減らすことで、顧客体験の大幅な向上が期待されています。
Omiseでは、この大きな変化を正面から受け止め、AIを活用して決済のあり方そのものを変革しています。具体的には、業務の効率化やセキュリティの向上に加えて、根本からお客様の体験を再構築することに取り組んでいます。その中でも特に注力しているのが「エージェンティック・コマース(Agentic Commerce)」です。これは、購入を検討する、支払う、お客様と店員がコミュニケーションを取るといった購買体験のすべてを再定義する新しいショッピングの方法です。
たとえば、お気に入りのアパレルショップのサイトにアクセスし、画面をタップします。「普段使いできるメンズジャケットが欲しい」と、頭の中に漠然と思い浮かんでいる欲しいものを話しかけるだけで済むとしたらどうでしょうか。そして、AIがあなたの好み、在庫状況、サイズ、予算に基づいて最適な商品を提案します。その中に気に入ったものがあれば、AIがワンタップで完了する決済画面を生成します。一度タップすれば支払い完了。商品はすぐに発送準備に入り、あなたの元へと届けられます。
すべてが数回のタップで完了。しかも、一度もチャット画面を離れることなく進行するのです。
ChatGPTやGeminiのような生成AIは、知的で役に立つ存在ですが、「エージェンティックAI(agentic AI)」はさらに大きな可能性を秘めており、ビジネスにもっと大きな可能性をもたらします。従来のチャットボットがユーザーの指示に対して単純な返答をするのに対し、エージェンティックAIは主体的に行動し、人間による介入を最小限にとどめます。一度目的を与えれば、その達成に必要なステップを自ら定義し、意思決定し、実行します。
このようなエージェンティックAIが専門知識をもった人間と連携することで、業務やワークフロー全体の自動化が進み、これまでにないレベルの効率性と成長を実現することが可能になります。もはやこれは未来の話ではありません。すでに多くの企業がこの技術への投資を本格化させています。ガートナーの予測によれば、エージェンティックAIを導入する企業は、2024年時点で1%未満だったのが、2028年には全体の33%にまで増加すると見込まれています。
エージェンティックAIの台頭を受けて、決済の未来に関するOmiseの構想は新たな段階へと進化しています。構想の実現に向けて、「エージェンティック・コマース」のような会話型の決済体験を積極的に開発しています。決済プロバイダー、そしてオンラインビジネスを展開する企業のパートナーとして、最小限の操作で完了する、AI主導のスマートな購買・決済体験を当たり前にする未来を、私たちは現実にしようとしています。
エージェンティックAIが、私たちの目指す未来像ですが、そこに留まるわけではありません。AIには金融業界を根底から変革し続ける不可避なパワーがあり、Omiseはその可能性をさらに切り拓いていきます。次回のブログでは、今後の展開について詳しくご紹介します。どうぞご期待ください。
Omise AIの詳細やベータ版への先行登録について詳しくはこちら:https://www.omise.co/jp/omise-ai
Sources
Coshow, T. (2024, October 1). Intelligent Agents in AI Really Can Work Alone. Here’s How. Gartner. Retrieved June 24, 2024, from https://www.gartner.com/en/articles/intelligent-agent-in-ai
Artificial Intelligence in Financial Services. (2025). In World Economic Forum. World Economic Forum.